2022年から高校で始まる「総合的な探求の時間」って「総合的な学習の時間」とどこが違うの?

これまでは「総合的な学習の時間」だったものが、2022年度から、高校では「総合的な探究の時間」になります。

――それって「学習」が「探究」に代わっただけじゃない?何が変わるの?と思ってしまいそうですが、実は結構大きな変更なのです。とりあえず、今わかっていることをまとめておきましょう。

自己の「在り方」も考えるのが探究

とりあえず、どこが違うのかを分かりやすく教えて?

了解です! 下の図を見てみてください。
傍線部が「総合的な学習」と「総合的な探究」の違いです。

総合的な学習の時間(平成29年告示)総合的な探究の時間(平成30年告示)
探究的な見方・考え方を働かせ、
横断的・総合的な学習を行うことを通して、
よりよく課題を解決し、
自己の生き方を考えていく
ための
資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(後略)
探究的な見方・考え方を働かせ、
横断的・総合的な学習を行うことを通して、
自己の在り方生き方を考えながら、
よりよく課題を発見し、解決していく
ための
資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(後略)
出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総合的な探究の時間編(平成30年7月)」

え、待って待って。これってほとんど同じじゃない?

確かに似ていますが、大きく違うところが2つあります。
1つ目の違いは、言葉が増えていることです。

総合的な「学習」では「自己の生き方」となっているけど、「探究」では「自己の在り方生き方になっている…

はい。実は、同じ資料の中に、次のような説明があります。

今回の改訂において名称を変更して特質をもたせたことには次のような背景がある。
一つは,この時期の生徒が,人間としての在り方を理念的に希求し,それを将来の進路実現や社会の一員としての生き方の中に具現しようと求めていることである。(後略)

 社会への出口に近い高等学校が,初等中等教育の縦のつながりにおいて総仕上げを行う学校段階として,自己の在り方生き方に照らし,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら,自ら課題を発見し解決していくための資質・能力を育成することが求められている。

キャリア教育と結びつけるってことが明確になったんだね。

自ら課題を「発見」することも探究

ところで、もうひとつ言葉がふえている箇所があるのですが、見つかりますか?

総合的な学習の時間(平成29年告示)総合的な探究の時間(平成30年告示)
探究的な見方・考え方を働かせ、
横断的・総合的な学習を行うことを通して、
よりよく課題を解決し、
自己の生き方を考えていく
ための
資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(後略)
探究的な見方・考え方を働かせ、
横断的・総合的な学習を行うことを通して、
自己の在り方生き方を考えながら、
よりよく課題を発見し、解決していく
ための
資質・能力を次のとおり育成することを目指す。
(後略)
出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総合的な探究の時間編(平成30年7月)」

「課題を解決し」が「課題を発見し、解決し」になっているね。

その通りです。文科省はこの資料の中に「探究における生徒の学習の姿」という図(下記)を掲載しています。課題の発見は、そのスタートにあたる部分ですね。

出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総合的な探究の時間編(平成30年7月)」

「日常生活や社会に目を向けた時に湧き上がってくる疑問や関心に基づいて、自ら課題を見付け」か…言うのは簡単だけど、なかなか「湧き上がってこない」生徒さんもいそうだよね…

文科省のこの資料では、
これまでの「総合的な学習の時間」の取り組みの中で見つかった課題として、

探究のプロセスの中でも

「整理・分析」,「まとめ・表現」に対する取組が十分ではない

ことを挙げているのですが、それ以前のスタート段階で、一人ひとりに合った課題(しかも本人の「自己の在り方生き方に照らし,自己のキャリア形成の方向性と関連付け」たもの)を、生徒さんが自分の力だけで見つけるのは、なかなか大変そうです。

小学校・中学校のうちに(「総合的な学習の時間」でも課外活動でもよいのですが)自分なりのこうした課題(テーマ)が見つかっていると理想的なのでしょうが…。

「自律的に行われる」探究とは

先ほど私は、「大きく違うところが2つある」と申しました。
その2つ目は、言葉の順序です。

総合的な「学習」の時間は、
よりよく課題を解決 → 自己の生き方を考えるという順序ですが…

総合的な「探究」の時間は、

自己の在り方生き方を考えながら → よりよく課題を発見し、解決していく

順序が逆になっているんだね。
「ながら」だから、同時にやっていく感じになるのかな。

そうですね。同じ資料に掲載されている、下記の図がわかりやすいと思います。

出典:文部科学省「高等学校学習指導要領(平成 30 年告示)解説 総合的な探究の時間編(平成30年7月)」

どんどん壮大な話になってるよ…

しかも、この活動のキーワードは「主体性」なのですよね…。

同じ資料の「内容の取扱いについての配慮事項」にはこんなことが書いてあります。少し長いですが、抜粋してみますね。

総合的な探究の時間においては,生徒が自ら課題を見付け,自ら学び,自ら考え,主体的に判断するなど,生徒の主体性や興味・関心を十分に生かすことが望まれる。そのためにはより質の高い指導が必要である。

(中略)

総合的な探究の時間においては,学びが高度化するとともに,自律的になることが期待されている。そのためには,自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題を自ら発見し,解決していくような学びを展開していくことが欠かせない。したがって生徒一人一人にとっての「課題の設定」が極めて重要になる。

(中略)

自分で課題を発見するとは,生徒が自分自身の力で課題を見付け設定することのみならず,設定した課題と自分自身との関係が明らかになること,設定した課題と実社会や実生活との関係がはっきりすることを意味する。そのためにも,実社会や実生活と自己との関わりから問いを見いだし,自分で課題を立てることが欠かせない。問いや課題は,既有知識や既有の経験だけからは生まれないこともある。そこで,実社会や実生活と実際に関わることを大切にしたい。

(中略)

発見する過程を重視するとは,生徒の中に生まれた問いや問題意識が切実な課題として設定され,より明確な「質の高い課題」として洗練されていくプロセスや時間を重視することである。「課題の設定」においては,課題に関することを幅広く調べたり,一人でじっくりと考えたり,様々な考えをもつ他者と相談したりするなどして,行きつ戻りつしながら,時間をかけて取り組むことを大切にしたい。

(中略)

このように高等学校においては,探究のプロセスの中でもとりわけ「課題の設定」を丁寧に指導することを心がけたい。「課題の設定においては,生徒が自分で課題を発見する過程を重視」とあるが,課題の設定において,教師は必要に応じて適切に指導・助言するのは言うまでもない。自分で課題を発見する過程は,生徒にとっても重要な学習場面であり,教師にとっては重要な指導対象となる。したがって,教師には適切な指導を行うことが求められるとともに,課題を設定するための知識や技能を生徒に身に付けさせ,自分自身で探究を進めることができるよう十分な時間をかけて指導することが重要である。

これは先生、大変だ…(汗)

自分の在り方や生き方にも大きく関係するようなテーマ(課題)を自分自身で見つけ出して、その解決に向けて探究を進めていく… 2022年から高校で始まる「総合的な探求の時間」は、なかなかハードルの高そうな取り組みだということがわかりました。

これに向けて中学受験手前の段階でできることは、やはりお子さん自身がどのような分野や物事に興味関心を持ち、どんなことを突き詰めたいと思うのかをまずはしっかり見ていくことでしょうか…。

その興味や関心を伸ばせる学校、あるいは、さまざまな経験・体験を通じてお子さんが視野を広げられる学校や、「探究の時間」の指導経験が豊富な学校さんが見つかるとなおよいですね。

この観点からおすすめできそうな学校さんが見つかったら、順次、このページとリンクしつつ記事をアップしていきますね。

(ご参考)探究学習に特色がある学校

Coming soon…