伝統のグローバル研修は総合探究プログラムの核にも~ 探究型入試紹介番外編② 鎌倉学園中学校 松下校長先生インタビュー~

例年以上の激化が予想されている2023年度中学入試。いよいよ各所で出願が始まる中、6年生保護者様は出願校の最終検討と調整を進めていらっしゃることと思います。

そのご参考のひとつにしていただくため、当サイトでは期間限定企画「探究型入試紹介」の連載をしています。今回はその番外編として今回は、学校独自の探究プログラムをご紹介します。

今回ご紹介するのは、鎌倉学園中学校(神奈川県鎌倉市)です。カマガクの歴史とともに歩んでこられた松下伸広校長先生に、探究プログラムの一部としても活用されている独自の「グローバル研修」について色々とお話をうかがってきました。

なお中学校での総合学習や理科教育、高2の修学旅行などを含む「自主自律」の精神を養う多彩なプログラムについては、読売新聞オンラインの特集記事に詳しく掲載されていますので、あわせてご参照くだdさい。

このシリーズの連載記事は、当サイト「オンライン合同学校説明会」のほか、年明けの2023年1月6日(金)以降、順次新サイトにも掲載していきます。(新サイトの掲載先は決定次第こちらに記載いたします)

「なぜ学ぶのか」を考えるカマガク生

伝統のグローバル研修が探究プログラムの一環として継続

――鎌倉学園さんの探究プログラムには海外に行くものがあると聞きました。

鎌倉学園中学校・高等学校 校長
松下 伸広先生(以下、松下):
 
今年(2022年度)、実際に海外渡航ができたのはベトナムだけです。コロナ禍で海外渡航ができなかった現高校2年生を対象に、伝統のグローバル研修として12月にベトナムを訪問しました。北米探究プログラムやヨーロッパ探究プログラムもあるのですが、今年は渡航が難しかったため目的地を国内に変更して活動しました。

――ベトナム、北米、ヨーロッパ。目的地の選定にはどのような背景があるのでしょうか?

松下:
本校では「なぜ学ぶのか」を生徒たちに考えてもらうことを目的に、中3から高2までの希望者を対象とするグローバル研修を長年実施しています。ベトナムと北米、ヨーロッパはこのグロ―バル研修の目的地として訪問を続けてきました。

――伝統のグローバル研修が今年から探究プログラムの一環になったのですね。

松下:
そうですね。高1の「総合的な探究の時間」(2023年度から高2でも実施予定)では春のうちに各自が自分の課題を設定するのですが、問いを立てるのはなかなか難しいものです。ですから、自分だけで探究課題を設定するのが難しい場合は、学校が準備した11のプログラムに参加し、その中で自分なりに課題を見つけていくこともできるようにしました。ベトナム・北米・ヨーロッパでの研修はこれらのプログラムのひとつとなっています。

グローバル研修は2020年のコロナ禍以来中断を余儀なくされていたのですが、これがどれだけ生徒にとって貴重な場なのか、私自身何度もプログラムに同行してよく知っていましたので、生徒のためにぜひ復活してあげたかった。ですから、今年(2022年)その一部だけでも復活し、12月に生徒を渡航させることができて本当に嬉しかったですね。

自問し行動に移すベトナム研修

重さ45kgの大綱を持ってベトナムの山岳地帯へ

――グローバル研修のテーマは「なぜ学ぶのか」であると聞いて興味が湧きました。ベトナム研修はどのようなプログラムとなっているのでしょうか。

松下:
一般的な観光旅行ではなく体験学習の場にするため、東南アジアで教育環境に恵まれない山岳少数民族の学習環境の改善を進めているNPO法人シーエスアールスクエアさんと一緒にプログラムを作ってきました。

生徒たち自身に考えさせたんです。現地の小学校の子どもたちに自分たちは何ができるのかって。最初に彼らが考えたのは折り紙です。折り紙の折り方を教えてあげよう、一緒に遊ぼうと。もちろんこれも好評でしたが、なんといっても一番喜んでもらえたのは運動会でしたね。

――運動会!

松下:
向こうの学校には運動会がないんだと聞いて、じゃあ日本の運動会をプレゼントしてあげたら喜ばれるんじゃないかと。種目も考えて、重さ45kgの大綱も日本から持って行ったんですよ(笑)。

――綱引きですね!

松下:
そうなんです。向こうで本格的な運動会をしました。当日はわーっと盛り上がって、翌日になったら子どもたちがお兄さん!お兄さん!とうちの生徒たちに駆け寄ってきて。一躍大人気になっていましたね。

(写真はイメージです)

本校の教員が授業をしたり、さびてしまった学校の門に生徒たちがペンキを塗ったり、植樹をしたりといった活動もしてきました。私も生徒たちに加わって植樹をしたことがあります。穴を掘らないといけないんですが、地面がひどく硬くてずいぶん苦労しましたね。やっと穴が開いた時、一緒に穴を掘っていた生徒が「先生、一生懸命やればなんでもできるんだね!」と感激していましたよ(笑)。

こういった活動や交流が、このプログラムに参加した本校の生徒たちをどんどん育ててくれました。現地の子どもたちは本当に勉強をしたがっていて、ノートや本を持って行くと目をキラキラさせて「ありがとう!」って喜んでくれるんです。現地にできたそんな友達のために自分たちにできることは何だろうかと考え続けるようになっていったのです。

新校舎や井戸を作るために奔走

松下:
生徒達が次に気が付いたのは校舎の問題でした。

――校舎の問題、ですか?

松下:
校舎のある場所は雨季になると水びたしで、生徒たちが腰まで水に浸かってしまうんです。これでは授業にならない。だったら、高台に校舎を作ったらいいんじゃないかと。

――それは大きなプロジェクトですね!資金はどうやって集めたのですか?

松下:
生徒たちが募金活動をしました。現地に行った時に竹細工とかそういった小物を買ってきて、学園祭などの機会に売ったりもしていましたね。新校舎が建ち、式典にはカマガク生も参加しました。こんな素晴らしい経験はないですよね。日本でいうとNHKのような現地の主要なテレビ局も取材に来てくれたんですよ。

生徒たちは井戸の問題にも気づいてくれました。

現地はベトナム戦争の時に枯葉剤をまかれているため、土地の表面に近い部分はまだ汚染されています。ですから、飲み水を得るためには岩盤をくりぬいてその下の水をとらなければならない。そのお金がないから飲み水が不足してしまっているという現状がありました。

これについても生徒たちが寄付を募って、2019年には2つの井戸をプレゼントすることができました。今後はトイレ事情が悪い現地の学校に水洗トイレを作る活動も計画しているようです。

(写真はイメージです)

身近に憧れを見つけた北米研修

何もなくてここに来たのか?そんなはずないだろう

――北米研修はどのような内容だったのですか?

松下:
私が引率した時は、ボストンでハーバードとMITに行ってきました。

生徒たちにとって何より大きな学びとなるのは、プログラムに参加してくれる現地の大学生なんです。

第2次世界大戦期の日本外交官・杉原千畝氏の「命のビザ」に助けられて日本経由でアメリカに渡った人を祖父に持つユダヤ系の学生。幼児のうちに亡くなってしまう子ども達を助けたいからと中南米から学びに来ている大学生、文化大革命の時に中国から逃れてきた親御さんの想いを背負って学ぶ大学生。ロサンゼルスから来た日系人の大学生は、路上生活をしていた経験があって、その経験を生かしてホームレスを救う活動をしたいと言っていましたね。

そんな彼らが自分は今後こんなことをするつもりだ、お前たちは何をしたいんだ?と真剣に生徒たちに問いかけてくるわけです。でもなかなか答えられないんですね。何も言えなくてもじもじしてしまう。そんな生徒たちに彼らは「なんだ、何もなくてここに来たのか?そんなはずないだろう。何かあるはずだ。さあ、話して!」とはっぱをかけてくれて。

これは素晴らしい経験でね。自分と2、3歳しか変わらないような若者が目の前で「こういうことをやりたい」とはっきり言える。すごい刺激になるんですよね。

帰国する日、学生のひとりがチェロを弾いてくれましてね。彼はハーバードで美術史を専攻している学生なんですが、プロのチェリストでもあるので、素晴らしい演奏でした。場所がホテルのロビーでしたので、じゃまにならないように隅の方で演奏したのですが、曲を奏でるとあっという間に人の輪ができて。生徒たちも「ありがとう」と口々に言い、「明日から頑張れよ」と励まされ、涙を流しながら別れを惜しんでいました。

こうやって、年が近い「憧れの人」を見つける。
そんな経験は普通の旅行ではなかなかできないですよね。

――まさに「なぜ学ぶのか」を考える研修ならではですね。

(次ページではヨーロッパ研修についてお伝えします)